「これからもずっと一緒にいれたはずなのに・・・」そう呟きながら、私は彼女と永遠の別れを告げた。何しろこのような形で全てが終わりになるとは思っていなかったので、ただただ動揺するばかりである。おそらく相手側もそう思っているかもしれない。いや、むしろそのはずだ。それ程にこの別れは唐突で、更に無残に引き裂かれていったのである。
思えばもう1年以上は付き合いのあったことだろうと思う。モスグリーン色をまとった彼女は、それこそ私の中では好きという部類に入っていたし、どんなことがあっても必ず一月に一回は私に近い存在だった。私が遅くまで仕事をしていたり、何も言わずに飲み会へ向かっても、何一つ文句を言うことはなく、いつでも、見守ってくれていたのである。私にしては出来過ぎだ。きっと、そこまでしてくれているのにも関わらず、私が何一つ気遣わなかったことに対して、神様が天罰を下したのかもしれない。 その日の朝も、相変わらず遅刻寸前の電車に乗るべく気力を振り絞って外出7分前に起きていた。私は彼女と一緒に家を出、そのまま駅まで歩いていく。駅のホームに到着すると、丁度案内放送が流れるという絶妙なタイミングの中、彼女と一緒に電車に乗り、そのまま一緒に会社まで行く。いつものように地下鉄に乗り換えた後は、首に手をまわしてくるのが恥ずかしい。左右の太さが微妙に違うにもかかわらず、一歩間違えれば締付けられるのではないかと思うほどの力強さだ。そしていつもの通り会社に着いてもあたりさわりのない日常を過ごしていた。 だから、こんな平穏な日々の中で突然起こった衝撃を目の当たりにして、私はただただ笑っているしかなかったのである。その事件は仕事も残業に差し掛かった19時前に起きた。私と彼女はある部屋で作業をしていた。その部屋には、紙が乱雑に置かれている、下のスペースも埋まっていて地震のときにはなんにも役に立たないような机が1つと、パイプ椅子よりは多少座り心地の良い椅子が3つ、コピー機、シュレッダー、スチール棚、オーディオラックに収められた機器類が狭い部屋に煩雑に置かれている。私はオーディオラックの配線を変えるべく、シュレッダーをどかし、機器の後ろに周り配線を変更していた。音声が正常に出力されるのを確認し、ラックと先程どかしたシュレッダーを元の位置に戻す。その時、私の耳に微かに聞こえる音があったのだ。と同時に私は急に体が前のめりになった。後ろで私の体を押している感触もない。かといって目の前には壁しか存在しないのだ。私はパニックになった。その状況の中で、彼女が呻き声をあげていた。私はすぐさま異常に気付き、発生した全ての音を脳の中で細分化し、今までの経験と照らし合わせる。そうか、この音はシュレッダーの音だ。私はすぐさま彼女の手を強く握った。しかし見ると彼女はもう、体の半分をうずめてしまっていたのだ。私が彼女に気を使わずに放っておいたせいだ。そんな後悔も虚しく、彼女の身体は切り刻まれ、二度と元通りになることがない。緊急停止ボタンを押し、私はなんとか助かったものの、放心状態になった。 今まで一度も彼女の名前を目前で呼んだことはなかった。しかし、この場を逃したらもう永遠に彼女の名前を呼ぶことはなくなるだろう。ああ、ネクタイよ、さようなら。
by hidemite
| 2004-07-21 01:33
| 詩・小説
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